フロム・ソフトウェアを退職しました。ゲームプランナーとして学んだこと

はじめに

 ゲームプランナーのClamと申します。

 

 株式会社フロム・ソフトウェアを退職することが決定しました。今は有給休暇の消費中であり、事実上の退職日はまだですが、最終出社日はすでに終えています。

 

 本稿では、約4年間コンシューマーゲームの企業に務めたことで、何が得られたかを記載していきます。今後、企業に勤めたい方の参考になれば幸いです。

 

自己紹介

※作者が出社する際のイメージ映像

 

 フロムソフトウェアの企画として、主に敵のレベルデザインを担当していました。担当作品は次になります。

 

・ダークソウル3(本編+DLC)

・Déraciné

 

※ダークソウル3の担当敵キャラの一部抜粋
ロスリック騎士、龍狩りの鎧、ロスリック&ローリアン、エルドリッチ、墓守の大狼、奴隷騎士ゲール

 

なぜ辞めた?

・年齢が今年で28となり、30手前までに代表作と呼べる、面白いから売れるゲームを個人で作りたい欲望が溢れました。

 

・会社で担当していたゲームの発売日が決定し、自分の担当範囲の作業が完了しました。引継ぎも完了したので、迷惑をかけずに退職できるタイミングでした。

 

・ゲームは完成させるが主義のため、次のタイミングは数年後になってしまうのが微妙でした。

 

※コンシューマーゲームは、中規模開発だと1~3年、大規模開発だと2~4年以上を持っていかれます。

 

実際どうだった?――良かった!

 良かったです。

何より充実したとても長い日々でした。

 

 得られたものは個人では学習できないと断言できるものです。知識では手に入れられたかもしれませんが、それを実践する機会は個人では手に入らなかったでしょう。

 

 アクションゲームに興味のなかった自分が、ゲームクリエイター就職大作戦というイベントで、フロムソフトウェアに入ったことは間違いなく正解でした。

 

 ということで、コンシューマーゲーム会社に興味のある方に向けて、ゲームプランナーとして理解しておくべきことを説明します。ここから本題となります。

 

ゲームプランナーの本質は何?

 

「ゲームプランナーって何する人だと思う?」

 

 昔、とあるゲーム会社の面接で出てきた質問です。

 

「人と人を繋ぐ、雑用でも何でもやる人だと思います」

 

 僕はその会社を落ちました。

 

※「人と人を繋ぐ、雑用でも何でもやる人――」
 ⇒:上記の要素 = ゲームプランナーではないです。

 

 今でしたら、こう答えます。

 

「よく俺を落としやがったな」

 

「面白さを必要最小単位まで分解し、組み合わせる人」です。

 

 ゲームプランナーの目的は面白いゲームを完成させることです。ゲームにおける面白さは大量にある要素の中から適正なものを組み合わせることで生まれます。

 

 本件の説明のために、パンチについて取り上げます。プレイヤーが特定のボタンを押すとキャラクターがパンチが出来るとしましょう。これが面白いかといったら、これだけでは面白くないです。

 

 理由は明白です。ユーザーがパンチしたいのは何かを攻撃したいからです。アクション(行動)はリアクション(報酬)無しでは成立しません。

 

 攻撃可能な対象を追加しましょう。そのうえで、対象がパンチに合わせてリアクションするとします。

 

 これが面白いかと言われたら、微妙です。ユーザーは数回パンチすれば満足し、それ以上の試行は楽しいから苦痛に変わります。面白くするには、さらに要素を組み合わせる必要があります。

 

※追加例:
・攻撃回数によってリアクションの段階を分ける
・パンチで壊せることが出来る範囲を広げる (キャラ、オブジェ、マップ、飛び道具)
・リソースの追加などメリットとデメリットによる駆け引きを加える

 

 ただし、いきなり異なる遊びの要素を混ぜてはいけません。例えば、ジャンプという要素を入れれば、違う遊びが出来てゲームは楽しくなるかもしれませんが、面白さが混ざってしまい、何が面白いのかわからなくなってしまいます。パンチで出来る遊びを考えつくし、枯渇した後で異なる遊びの要素は入れていきましょう。

 

  次に知っておいてほしいことに、面白さには寿命があります。

 

 面白さの寿命とは、その要素に触れた際に飽きずに遊べる時間です。これが尽きると楽しさが苦痛に変わります。パンチという要素も連続して使えば、すぐに寿命が切れます。が、適切な時間が経過すると面白さの寿命は復活します。昔、遊びつくしたゲームを再びやりたくなるのはこいつが原因です。

 

 では寿命がきれるのを防ぐにはどうすればよいでしょうか?――シンプルに面白さの寿命が切れる前に、別の遊びにつなげて、寿命が回復するまで時間稼ぎすればよいのです。一番まずいことはつまらない時間をユーザーに与えることです。

 

 

 以上より、ゲームを面白くするのに有効な方法は次になります。

 

要素を組み合わせて面白さを高める

面白さの寿命が回復するまで、別の面白いに繋げて楽しさをループする

 

 これらよりゲームプランナーがやるべきことは、「面白さを必要最小単位まで分解し、組み合わせる」ことになるわけです。

 

 しっかり出来れば、自分の作りたいテーマから、要素を抽出し、組み合わせることで1からゲームを作ることが可能になります。反対に確信を持てなければ、自分の作業に迷いが発生することになるでしょう。

 

※必要最小単位と言っているのは、あまり細かいことまで考えるとゲームが完成しなくなるという本末転倒を避けるためです。嫌いなやつを倒したり、壊しちゃいけない物を壊すことが楽しいです。それ以上考えても費用対効果に合いません。

 

ゲームプランナーの作業フロー

 面白さを実装するにあたり、実際に必要な脳内作業フローについて記載します。次の問いに対して、順番に答えて、最後まで問題なければ成功です。面倒ですが、たとえ細かい要素でも次のフローを一度は考える必要があります。仕事です。

 

 

作りたいゲームのテーマに対して面白いと感じる要素は何がありますか。質と寿命の良い組み合わせが見つかりやすいでしょうか?複数の要素が混ざっていませんか?

みんなが面白いと思えるものですか。納得させることが出来る状態になっていますか?

どうやればゲームに実装できるでしょうか。実装する時間は費用対効果に見合いますか?

作成まで最短でやるなら、誰がやるのが早いでしょうか。自分でやるのが最速でしょうか?

簡易テストしてみて、本当に実装できそうでしょうか。引き返した方が良いのに意地になっていませんか?

要素を構成する各数字(パラメータ)の調整は、すべて意味を持ってその要素を満たすものになっていますか。怠惰的、盲目的に意味のない数字を入れていませんか。なぜこの数値なのかと聞かれたときに答えられるようになっていますか?

自分の弱い部分がどこかを誰かにちゃんと教わっていますか?弱い部分は優れた人に意見を聞いて直しましたか?

最初に作りたかった面白さは置いておいて、それは客観的に面白いですか?

 

 上記のフローを通し、失敗は失敗と可能な限り早く認めたうえで、要素の分析から再構成までにかかる時間を減らせる人こそ、優れたゲームプランナーです。

 

あなたの強みは何か?――効率厨!

 ゲームプランナーがどんな仕事で何をすべきかが導き出せたのであれば、次に必要になのは自身の強みを発見することです。

 

 同僚が多数いる中で自身が秀でていることを上司に証明できなければ、自分が面白いと思う要素を実装することは困難だからです。また、この問いは会社の面接で確実に聞かれます。

 

 強みを探すということは、自身に対するゲーム制作に有効な要素の分析が必要になるわけです。面白いと客観的に思われている要素に対して、それが自分が得意だといえる必要があります。参考までに、僕の中でこれだと思った要素は――効率厨でした。

 

 僕は効率厨です。

 

・ゲームにおいて、一番効率の良いプレイの模索を好みます。

 

・これ以上効率化できない or 費用対効果が悪くなったらゲームをやめます。

 

・自己の成長だけで、目的を達成できなければ、他者に影響を与えて改善を望みます。他者に不快を強く与えると逆に非効率になるので、ぎりぎりを見極めます。

 

・新たな面白さを得られない、一度やったゲームは処分します。

 

 なぜ、そういったプレイを好むかと言われれば、僕が一番面白いと感じることは「発見により有利に物事を進めること」だからです。

 

 自分が一番好きなプレイということもあり、経験値が多く、ほかの企画よりもこの点は感覚的に優れていると言えます。あとはこの面白さを他の人にうまく伝えることが出来れば、強みになります。

 

 発見により有利に物事を進めることの一例をあげます。

 

盾を構えている敵がいるとしましょう。この敵を正面から攻撃した場合、盾のせいでダメージが入りません。どういった要素があれば、この敵を正面から気持ちよく攻略できるでしょうか?

 

 攻略手段はこちらが用意する必要があります。それは、プレイヤーが発見出来る手段でなくてはいけません。

 

 一つは見ることによる発見です。

・盾のデザインに亀裂を入れておく。

・明らかに燃えそうな木の材質が見てわかる。

壊せそう、燃やせそうとプレイヤーに気づかせるのです。

 

 一つはすることによる発見です。

攻撃を与えた際に、敵が一回目の怯みよりも、二回目の怯みを大きくするのです。そうすると、ダメージは変わりませんがもう一回殴ったらもっと怯む or 崩せるのではと考えさせることが可能です。

 

 こう言ったプレイヤー側の発見で戦闘を楽にできる要素をRPG的攻略要素と一部では呼ばれています。自分が考えたことが、攻略の手段としてうまくいく = 楽しいは明白です。

 

 逆にやってはいけないことは、盾の壊し方をテキストなどで教えることです。教えることは答えの発見にはなりません。やらせだと発見することは本人にとっては面白くないです。ゲームで答えを教わるのは楽しいことでないですし、ほかのことを試したくなります。

 

 このようにすでに自明の理を、自分はしっかり会得しているぜということをうまく相手に伝えられれば、自身の強みになります。

 

サヨナラ!

 コンシューマーゲーム会社に勤めたことで、ゲームプランナーとして必要不可欠に感じた要素は以上になります。あとは上司から好かれるコミュニケーション能力さえあれば、なんとでもなります。これは死ぬ気で人との対話(○キャッチボール ×ドッチボール)を行ってください。対話ができないのは致命的です。

 

 特に企業は、学校ではないので、答えは誰も教えてくれません。自分で得るか、だれかと対話することで得られなければ、脱落するしかありません。逆に言えば、会社にいることの一番のメリットは、自分よりも頭のいい人と対話できることです。可能な限りセンスを盗めるチャンスでもあります。

 

 この4年間は、毎日が誰かとの対話(格闘)であり、面白さを実装する上での殴り合いでした。自身を育ててくれた上司の方々には感謝の一言です。そこに棘はありましたが、それを愛と言い張るには厳しいですが嫌いではありませんでした。

 

 今後の予定としては、ホームページの記事の更新とSteam向けにゲームを一本製作する予定です。作るゲームは企画書から作っていこうと思いますので、引き続き、そちらも見ていただけれたら幸いです。

 

 以上です。

最後まで見ていただきありがとうございました。