遊びのためのアクション(行動)とリアクション(報酬)

はじめに

 ゲームを完成させるのは困難です。人は作りかけのゲームを平気で殺します。

 

 ゲームが完成しないのは、作り手が飽きてしまうからです。あなたが面白いと思わないゲームを作るのはこの上ない苦痛です。耐え難い痛みです。何故作り手が苦しまないといけないのかという妥当な問いがゲームを殺します。

 

 勘違いです。

 

 ゲームを完成させるために、最重要なことは”誰か”を喜ばせることではありません。作り手が、一番喜ばせる必要のある人物は”自分”です。あなたが考えた素晴らしいゲーム体験を、自分が楽しみたいからゲームは作られるのです。

 

 では、あなたが考えたゲームが面白いと証明してくれるのは何でしょうか?――それは作りこまれたアクションとリアクションです。彼らこそが面白さです。

 

 本稿ではゲーム内で発生するアクションとリアクションはどのように考えるべきか、僕なりに説明します。

 

 

※サムネイル画像はスパイダーマンより

 

 

そもそもゲームを作るとは?

 ゲーム作りの基本は、脳内で考えた俺の最強のゲームを現実でプレイできるようにすることです。コントローラーを用いて、ゲーム内のキャラクターを動かすことで、ゲームの中で起きる出来事を現実とリンクさせるのです。

 

 そのゲームが面白いかどうかは、そのためのアクション(行動)とリアクション(報酬)にかかっています。現実と同じように何かを体験したいと感じたならば、そのための行動を行い、報酬を得る必要があります。それが楽しいのです。

 

 強いやつを倒すのも好きな人に告白するのも、自分がそのために行動して成功するからうれしいのです。あなたが脳内で描いたゲームの面白さを人に伝えるために、そのためのアクションとリアクションを作りこみましょう。

 

 

 

シンプルに良いアクションとリアクションとは?

 ゲーム内で発生するアクションとリアクションで良い悪いの基準はシンプルです。

 

アクションに対して――
 適切なリアクションが返ってくるのはプラスになります。
 微妙なリアクションが返ってくるのは0点です。あって当然という感触になります。
 最悪なのは、何も反応がないことです。これはマイナスになります。無反応を人は嫌います。

 

 次に、ゲーム内で発生するアクションとリアクションで心がけることは次になります。

 

アクションでは、実用性、快適性、画作り、連続性の4点を心がける必要があります。
 実用性とは、そのアクションがユーザーの意図した効果をもたらすかどうかです。
 快適性とは、そのアクションを行うための方法が、気持ちよいかどうかです。
 画作りとは、そのアクションがユーザーに意図した感情を与えるかどうかです。
 連続性とは、そのアクションが異なる状況に繋がり、別の面白さに繋がるかどうかです。

 

リアクションは、攻略性、演出の2点を中心に考えます。
 攻略性とは、そのリアクションが次に繋がる発見をもたらすかどうかです。
 演出とは、そのリアクションがゲーム性には影響しないが、あることで嬉しいものです。

 

 

 

 

アクションとリアクションは目的を見失いやすい


 説明した通り、目指すゲームの面白さを作るには、アクションとリアクションが必須です。が、アクションとリアクションは試行錯誤していく上で目的がずれやすく、見失いやすい要素でもあります。

 

 アクションは何のために作っていたのかという目的が消えやすいです。「アクションゲームだから移動と攻撃は取り合えず必要だよね」ではいけません。作りたいゲームに向けてどういった移動と攻撃が最適か考える必要があります。

 

 リアクションに至っては存在を忘れがちです。良いリアクションは受動的に受け取ってしまうため、意識していなければ気づくことが出来ません。現実世界では、リアクションはアクションすれば勝手に生まれますが、ゲームは違います。リアクションはプランナーが意識して作らなければ生まれません。

 

 

 

サムネ画像にすらアクションとリアクションを適切に仕込む大企業の名作 スーパーマリオオデッセイ

 

 作りたいゲームを成立させるために、うまくアクションとリアクションが作りこまれている例として、スーパーマリオオデッセイのマリオの基本的なアクションであるジャンプを分析したいと思います。やったことがない方は買え、むしろゼルダBOTWを買え、ついでにゼノブレイド2も買え、紹介動画を見るか、プレイ動画として、公式公認のヒカキンさんの実況動画を見て抱けると助かります。

 

 

作りたいゲームを目指してアクションとリアクションを考える

 

 はじめに、今作のマリオが移動で作りたい遊びは何かを考える必要があります。今回はホームページ見出しにある”マリオ世界の旅へ”の記載より、”異なる世界を自由に旅する”体験をプレイヤーに与えたいのだと仮定します。

 

 この体験を成功させるためには、高低差を無視して自由に何処にでも行ける移動手段が必要です。その一つとして”ジャンプ”というアクションを追加します。また、ジャンプが気持ちよくなるようにリアクションを考える必要があります。

 

 ”異なる世界を自由に旅する”ためのジャンプというアクションに必要な要素とジャンプすることで起きるリアクションはどういったものが良いかについて考えてみましょう。答え合わせは実際にプレイすればいいのでとても簡単です。

 

 

 

■アクションの要素:ジャンプで飛べる距離、角度、時間はどれぐらいがよいか?

 

 アクションの実用性として、様々な世界を旅するのに必要なジャンプはどれぐらい飛べる、飛んでいられる必要があるのかを考えます。と言っても考えるより作った方がこの手のものは実際は早いです。

 

 その際に、どうなるのが良いかの予想をつけてからテストしてみましょう、口でしっかりと説明できるのがベストです。

 

説明例
「ジャンプの高さはイメージしやすく、現実のビルの2階に1度のジャンプで届く高さにしました。普通は行けない高さを飛べるので気持ちよいです」
「ジャンプは着地ごとに連続で出すと、異なるジャンプが出るようにしました。見た目と飛べる高さが変化するので連続でジャンプすることが楽しくなります」
「前への移動量は走行と同じにしました、早すぎれば走る意味がないですし、遅いと小回りが利かないジャンプが使用しづらくなります」

 

説明ができるようになると対話が発生する
A「連続ジャンプのテンポはリズムを取るように、同じテンポでボタンを押すことが成功だと分かりやすいよね。飛ぶ高さは別でも、滞空時間は同じにするのはどうだろう?」
B「滞空時間は高さに合わせて変えた方がシンプルで、制限をつけない方が良くない?連続ジャンプのテンポは着地のSEがなっている間ならOKで伝わらないかな」

 

 

 マリオのジャンプの距離、角度、時間が何を意図して作っているかは任天堂本社にミッションインポッシブルする必要がありますが、結果として良い調整であることは確かです。

 

 

 

■アクションの要素:ジャンプの演技はどういったものが気持ちよいか?

 

 アクションの快適性と画作りのために、自由に高い場所に移動できることを伝えるのに最適な演技はどういったものかを考えます。正解はありませんが、良い演技にはアクションの内容を伝えやすくする意図が盛られていることが重要です。

 

 実際のマリオのジャンプの演技。着地ごとにテンポよくジャンプボタンを押すことで3段階のレベルで高く飛ぶことが出来ます。

 

1段目:頭上に伸ばした手と上を見る動きが、ユーザーにマリオが上に向かって移動しているという勢いを感じさせます。

 

2段目:両手を水平から下ろすことで、上に向かってぐいっと泳いでいるように感じます。体を伸ばした状態で、マリオの頭だけが上を向いているというのもポイントです。

 

3段目:空中での縦回転を加えた大ジャンプ。空中で演技が出来るほどの高く飛んでいることが分かり、スタイリッシュなフィニッシュが際立っています。

 

 

 

■リアクション:ジャンプの音がどうなっていれば気持ちよいか?

 

 リアクションの演出として、ジャンプというアクションに対する音でのリアクションを考えましょう。

 

・音のタイプ(現実に近い音?ゲームっぽい音?爽快感のある音?)

 

・音の発生場所(靴?服?地面?それとも音の出る場所は固定?)

 

・音の発生タイミング(ボタンと同時?高さが最高点についたとき?)

 

・音の長さは?(どのタイミングで途切れる?)

 

・状況で音を変えるべきか?(上昇中や落下中で分ける?)

 

 

 マリオのゲーム内では、ジャンプボタンと同時に特徴的な快感のある音を鳴らし、最高点にたどり着くタイミングで効果音が切れる長さになっています。全ての段階で飛べる高さと長さが違うので、高く飛べる2段目、3段目の方が長い音になっています。

 

 

 

■リアクション:ジャンプした地面は何が起こるのが望ましいか?

 地面を蹴り上げる以上、地面側にはリアクションがあるべきです。地面を蹴って跳んだという手ごたえを得るために、蹴られた地面からは何が発生したらよいかを考えましょう。

 

 マリオのゲーム内では、ジャンプに合わせて地面の素材が巻き上がり、それに合わせた音が鳴ります。草原なら、草。砂漠なら、煙。水場なら、飛沫です。さらに場所に応じてコントローラーの振動の種類が異なります。

 

 

 

■リアクション:ジャンプしているマリオはどのような表情が望ましいか?

 アクションしているマリオは当然リアクションを受け取っているはずです。彼は高く自分が飛べていることにどういった感情を受けるでしょうか。少なくとも、自分の操作しているキャラクターが楽しそうにしていたら、プレイヤーにも楽しそうという共感が生まれるのは間違いないでしょう。

 

 

 

■シンプルに言って、マリオのジャンプは良く出来ている!

 

 マリオのジャンプが単体でも成立しているのは、多くの問いかけに対して答えを一つ一つしっかりと出せているからです。つまり、作りたいゲーム性に向けてアクションの要素を丁寧に考え、対応するリアクションを作りこみ、面白いと感じるほどの手応えを成立させているのです。
 

 ※アクションやリアクションに対して考えるときに、別の要素と混ぜて考えてはいけません。例えば、マップとセットでジャンプを考えるとします。そうすると、これぐらいの高さを登れるようにしたい、この高さは登らせたくないという条件が発生します。こうなると条件を達成させることに夢中になり、気持ちの良いジャンプという本件の目的と反します。
 
「もう少し高く飛べたほうが楽しそう」と他の誰かに言われたときに、「この高さを飛ばれるとマップの都合上不味いから無理」と言うのはこの段階では本末転倒です。ちょうどよい高さを見つけてから、それに合わせてマップを調整するのです。どちらにせよ組み合わせに伴う調整は、手ごたえを感じてからにしましょう。

 

 

アクションとリアクションを循環させて面白さを繋ぐ

 プランナーが目指すべきはユーザーをゲームに依存させて、面白さの輪に閉じ込めること。

 

 ゲームを構成する面白さ作りには、アクションとリアクションの作りこみが鍵であることについて先ほど説明しました。作りこみに手ごたえを感じられたのであれば、話は一歩先に進みます。次にやることは、アクション(リアクション)同士を繋ぎ合わせて面白さを循環させることです。

 

 1つのゲームに対して作りたい遊びが1つということはないです。マリオでしたら、世界を旅するという体験のほかに、プレイヤーキャラクターで作りたい遊び、敵キャラクター全体 or 個別での遊び、このマップで作りたい遊び、この特定のオブジェ限定での遊び。と言ったように、大目標、中目標、小目標で作りたい遊びが分かれているはずです。

 

 この分かれた遊びを繋げていくことで、面白さを循環させます。面白さが繋がるということは状況に変化が起きるということです。アクションすることで、ひとつ前の状況と次の状況が異なる必要があります。

 

■面白さが繋がるとは?
 例)
   瞬間的にプレイヤーが有利、不利になる 
   出来る選択肢が増える
   情報量が増える
   有効な要素が変更される

 

マリオのジャンプで例を出します。
 敵を踏みつけることで、敵が怯む。(瞬間的にプレイヤーが有利になる)
 敵を踏みつけることで高く飛ぶ(出来る選択肢が広がる)
 ブロックを下からジャンプして叩くことでアイテムが出る。(出来る選択肢が広がる)
 ジャンプした反動で地面が崩れる(有効な要素が変更される)
 ジャンプによって隠れていたブロックが表示されるようになる。(情報量が増える)
 敵を踏んで倒すことでリソースを獲得する(出来る選択肢が増える)

 

 面白さが繋がると今が楽しいだけではなく、次のアクションも楽しくなります。同じアクションをとっても状況が違うと異なる感触を受けます。次から次へと面白さを繋げてループさせましょう。面白さを繋げる作業を怠れば、プレイヤーがアクションをとっても状況が変わらないため、同じことの繰り返しとなり面白さの寿命はすぐ途絶えてしまいます。

 

 

まとめ

・ゲーム作りを楽しくしたければ、その面白さを証明するためにアクションとリアクションを作りこみましょう。

 

・アクションやリアクションを考えるときには、目的の遊びのために作ることを意識しましょう。

 

・アクションすることで必ず状況が変わるようにしましょう。変化が別の面白さに繋がります。

 

 

 以上です。かなりアクの強い記事のため、意見の相違もあると思いますが、自身の思考のたたき台には便利だと思います。(遠い目)

 

 長文でしたが、本文を読んでいただきありがとうございました。これが参考となり、あなたのゲーム作りが良くなればとひとえに思います