戦闘における距離の重要性

はじめに

 ゲームの戦闘を面白くしたければ、プレイヤーか敵がアクションしたら状況が変わる必要があります。状況が変わらないと最適解が生まれます。最適解を見つけたユーザーはそれしかしなくなります。それ以外やる必要がないのです。

 

 状況を切り替える一番シンプルな手段とは何かについて、私は”プレイヤーと敵との距離”と答えます。状況を変えたければ、プレイヤーか敵がアクションする度に距離の変化が起こればよいのです。

 

 距離が変化すれば、お互いが取れる手段が変わります。お互いに得意な距離があれば、瞬間的に有利不利という駆け引きが発生します。

 

 本稿では、プレイヤーと敵との戦闘を面白くするのに必須である状況の変化について、距離を活用することの重要性について解説したいと思います。

 

※サムネイル画像は近接マルチアクションゲームであるForHonorより引用

 

 

シンプルに敵との戦闘を考えてみる

 戦闘においてなぜ距離が重要かについて説明します。移動と攻撃だけ可能な近接戦闘ゲームをシミュレートしてみましょう。素手のキャラクターを2体用意して、戦闘が発生したとします。

 

 開始は遠距離

 お互いの間合いに近づく

 


 間合いに近づくと片方が勝つまで殴り合います

 

 最低限のシンプルさで作ればこうなりますが、やれることが一つしかないので戦闘は当然面白くないです。シミュレーションに要素を追加しましょう。お互いに武器を持たせ、武器ごとの得意な距離を導入します。片方には、間合いの長い槍、もう一人には、間合いが短いが攻撃速度の早い剣を持たせます。

 

※攻撃中にも自由移動が可能な場合、射程の長い武器を持った側による一方的な攻撃が成立し、駆け引きが起こらず、ゲームにならないため、今回は攻撃中は踏み込みのために前に進み、前後左右への自由移動は出来ないものとします。

 

 これでどう変わるでしょうか?

 


 開始は遠距離、お互いの得意な間合いまで近づきます

 


 槍の間合いで槍が先制攻撃、剣は間合いの外なので攻撃を当てるために近づく必要があります

 


 剣の距離に入り、片方が勝つまで戦います

 

 得意距離のシステムを導入しましたが、最初とほぼ変わりません。お互いに得意な距離があっても維持するための仕組みがありません。お互いの間合いに入るとその状況から変化しなくなります。距離の仕切り直しが必要です。攻撃を当てると相手が吹っ飛び、距離のリセットが発生するシステムを導入します。

 

 これでどう変わるでしょうか?


 開始は遠距離、互いに自分の得意な間合いへと近づきます

 

 槍の間合いで槍が先制、剣は吹っ飛び、最初の地点に戻ります

 

 再び遠距離、互いに自分の得意な間合いへと近づきます

 


 槍の間合いで槍が先制、剣は吹っ飛ぶ、以降ループで槍が勝ちます

 

 仕切り直しには成功しましたが、剣側には、この状況を変えるアクションがないので糞ゲーになりました。剣側が得意な距離に近づけるアクションが必要です。回避移動という選択肢を両者に与えます。攻撃に対してタイミングよく回避すると、攻撃を受けずに距離を詰めるか離すことが出来ます。失敗した場合は、攻撃を受けます。

 

 これでどう変わるでしょうか?

 開始は遠距離、互いに間合いに近づきます

 


 槍側の間合いに入ります。この距離では槍が一方的に攻撃できますが、剣は槍の攻撃タイミングに合わせて回避で近づくことが可能です。回避に成功すれ剣の間合いとなり、攻撃速度の速い剣が有利になります。回避に失敗すれば、剣側が吹っ飛びます。

 

 まだ、状況を変えるアクションが足りていません。槍側の最適解は剣が回避するタイミングを読んで攻撃しろ、であり、剣側の最適解はタイミングよく避けろです。お互いに待ち(パッシブ)の要素が強く、状況が状況が停滞しがち = つまらない状態です

 

 両者にもっとアクティブに攻略することが有利になるアクションが必要です。ダッシュ攻撃を両者に追加します。ダッシュ攻撃は距離を一気に詰めながら出せる攻撃です。通常の攻撃と合わさると一方的に負けますが、槍側の距離でも剣側が仕掛けることが出来るようになります。

 

 これでどう変わるでしょうか?

 剣側は槍の間合いより中に入るのに、ダッシュ攻撃(アクティブ)で奇襲するか槍の攻撃に備えて回避を伺う(パッシブ)かの選択が発生します。槍側は攻撃を振って、ダッシュ攻撃を潰してダメージを与える(アクティブ)、回避を読んで攻撃を待つ(パッシブ)かの選択が出来ます。

 

 互いにアクティブ、パッシブ(攻めと待ち)の有効な選択肢が発生しました。これにより、このシミュレーションが最適解を解くだけのパズルから脱出し、最低限度の遊びを確保したミニマルなゲームになりました。現状だけだと選択肢が少なすぎて、面白くはないでしょうが、基礎はあるので伸ばすことは容易いでしょう。

 

 やったことは、”武器ごとの有効な距離の差別化”と、”距離を詰める手段と距離を離す手段”をアクションとして用意しました。すべて、“距離”が関係しています。他にも最適解のパズルをやめる手段(硬直、ガードと投げ、角度、高さ等)はありますが、”距離”は適切にコントロールするだけで状況を変化させ、戦闘の面白さに繋がる重大な要素だということは理解していただけたと思います。

 

※追加でマップに壁を置けば、互いの距離を近づけるための手段になりますし、吹っ飛びに合わせて追加で攻撃を入れることも可能でしょう。やり方はいろいろあります。

 

※今回、近距離戦闘のゲームで例を出しましたが、遠距離戦闘だと難易度が跳ね上がります。仕切り直しを考える必要性は少ないですが、遠距離武器で状況を変えるのが難しいのです。絵面がコミカルでも許されるのであれば、吹っ飛べば成立します。

 

 

距離ごとの遊びを考えよう

 戦闘の面白さには距離の変化が重要であることを先ほど説明しました。では、距離に応じた遊びはどの様に考えるべきかについて自身の考えを述べます。

 

 遠距離中距離近距離至近距離の4つを丁寧に作るべきです。各距離での遊びを明確に分けることで、距離の変化ごとに異なる面白さに繋げましょう。

 

 今回は近距離戦闘を主軸にするゲームでの4つの距離の取り方を例に出します。

 

 

遠距離(接敵距離)

敵が気づいていないルートを選択することでステルスを取ることも可能な距離です。(画像はゴッドオブウォーより、動画はこちら

 

 遠距離は戦闘の是非を問う距離です。エスト瓶を一回飲んでも反撃を食らわない距離。リスク無しで、好きに1アクション出来る距離と考えてください。回復やバフと言った戦闘の準備が出来る距離であり、背後や高みからの奇襲も可能な距離です。実際の戦闘に入るまでの遊びを作る距離です。

 

 この距離での遊びはどう近づくか、どう遠ざけるかになるでしょう。

 

 

中距離(監視距離)

敵全体が見やすく、何をしているかのきっかけを捉えるのが簡易な距離(画像はゴッドオブウォーより、動画はこちら

 

 中距離はプレイヤーにとって発見が有効な距離です。敵の攻撃の間合いの少し外を指します。(間合いは敵によって当然異なります)攻撃の回避が容易なため相手の攻略を発見するのに適切な距離です。戦いの刹那が作れるので一番緊張感が高まる距離でもあります。

 

 この距離では敵はすぐに攻撃させずに睨みあったり、プレイヤーが攻略の発見のために、そのキャラの一芸となるアクションを出させるとよいです。

 

 

近距離(攻撃距離)


武器の得意距離です。プレイヤーが攻めたければこの距離を維持したくなる作りが良いでしょう(画像はForHonorより、プレイ動画はこちら

 

 近距離は攻めが有利な距離です。その武器を一番有効に活用できる距離です。ボタンを押したら攻撃が届く(武器の刃が届く)距離と考えても良いです。

 

 この距離ではアクティブにアクションすることが有利になる必要があります。プレイヤー側がこの距離でアクティブに動くと不利になるゲームは、敵の攻撃を覚えて正解を返すだけのつまらないゲームになります。なにかしら、相手に強みを押し付ける楽しさは必須です。

 

※相手に自分の強みを押し付けるゲームの代表例:遊戯王デュエルリンクス,シャドウバース(初期ロイヤル)

 

 

至近距離(後退距離)

小型だと踏みこむ一歩もない距離、自分の体で隠れるため敵の攻撃が分かりづらい(画像はForHonorより、プレイ動画はこちら

大型の方が顕著に分かりやすい。敵が何をするか発見するのは無理。このサイズの敵だとこの距離が至近距離になる。(画像はゴッドオブウォーより、プレイ動画はこちら

 

 至近距離は危険な距離です。体が密接するぐらい近く、武器を振ると武器より腕が当たる距離です。この距離は互いにとって一番危険です。互いに次に何のアクションを取るか発見が出来ません。気づいた頃にはもう遅いです。

 

 基本的にこの距離はどちらかがアクションした際の移動によって発生します。何もせずにこの距離に入らせてくれる敵はパーソナルスペース狭すぎです。自分を大切にしましょう。

 

 アクション例でいえば、近接攻撃を当てて敵に硬直が生まれた。攻撃を防がれて自分に隙が生まれた。敵が倒れていたところを起き攻めした。などが挙げられます。当然片方がアクションしたので状況が変化し、片方にとってはボーナスタイムで片方にとってはピンチな状態になっているはずです。

 

 この距離でやらせることは一つです。ピンチ側に仕切り直し※を強要させます。仕切り直しを怠った、失敗した場合には、手痛い罰を設けましょう。

 

 この距離をノリで作ると酷いことになります。この距離が危険でない場合は、仕切り直しが発生しなくなり状況が停滞します。攻略を発見する暇も無く、次に繋がらないので面白さの寿命が速攻でなくなります。端的にいうと、この距離は瞬間的には面白いですが、長時間いると最高に面白くない距離になります。

 

※仕切り直しの例:ガードではじいて距離を開ける、ステップによる逃げ、ぶっぱ昇竜、カウンター、自己中心爆発、一時的スーパーアーマー、投げ

 

 

 上記の4距離を適切に作ると、距離ごとに別の遊びが個別に生まれます。(近づくか離れる、観る、攻撃する、下がるか押し通す)また、自然と距離の循環がプレイヤーの意思(やりたいこと)によって発生するようになります。

 

 今回は自分が考えた一例を述べましたが、別のやり方でも問題ないです。あくまで、アクションしたら状況が変化するが出来ればよいのです。状況が停滞することを避けられればそれでよいのです。

 

 

状況が変化するため、”戦闘が面白い”アクションゲームの例

 

 状況を変えるには、自分としては”距離”が良い言う考えは述べ終えましたので、他のゲームでの状況の変え方を見てきましょう。(God of War と For Honorはもう見たので抜きます)

 

 

 

 任天堂大乱闘スマッシュブラザーズ

 どんな攻撃でも敵に当たると吹っ飛びます。ダメージの蓄積量に応じて吹っ飛ぶ量が変わるので、同じ攻撃でも状況の変化が大きくなります。

 

 シンプルにして、戦闘の面白さを作る例の一つとして、一番わかりやすい模範解答だと思います。これ以上は既知と思われますので省略。

 

 

 

 

 名作と呼ばれる格闘ゲーム(最近の作品としてドラゴンボールファイターズを抜粋)

 

 格闘ゲームでは、アクションごとにリスクとリターンが存在し、お互いにフレーム単位で瞬間的な有利不利が発生し、状況が目まぐるしく変化します。

 

 その状況の変化の速さがライト層で対応できず、攻略を発見するのが大変なので面白くないと感じるのが問題はありますが、慣れた人間からすると、そのスピード感が気持ちよい、これじゃないと物足りなくなります。

 

 

 

 

 ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド

 敵を攻撃するための手段が非常に多く、アクションすることで、プレイヤーが狙った状況を作ることが出来る遊びそのものの幅が広いゲームです。

 

 基本的な攻防も、主人公の攻撃の最終段はフィニッシュ攻撃となっており、敵に大ダメージを与えて吹き飛ばすため、十分なリターンを保証しつつも仕切り直しの面倒くささを解消しています。

 

 

 

 

 Gang Beasts

 世界で一番醜い格闘試合を楽しむことができるアクションゲーム。殴りあっているとステージ自体が大体ぶっ壊れていく(いい意味で)ので、受動的に状況の変化を楽しむことが出来ます。狙って何かをやるというよりも、自然と奇跡が発生するパーティゲーム。

 二人のキャラクターが場外へ一緒に落とされて敗北確定の中、落ちながらも、お互いの顔面を殴りあっているシーンは感動もの。

 

 

 

 
 

DARK SOULS Ⅲ

 フロム・ソフトウェアより2016年3月24日に発売されたPlayStation 4、Xbox One、Windows用アクションRPG。2017年4月20日に『DARK SOULS III THE FIRE FADES EDITION』が発売。

 

 手強い難易度のコア層向けのゲームにも関わらず、ワールドワイドでの売り上げは480万本を突破した、インディーズゲーム界隈では、このゲームの良くできたバランス調整を自身のゲームに取り入れる行為を”ソウルライク”と呼ぶ。不朽の名作。

 

Amazon 購入ページ
 https://www.amazon.co.jp/DARK-SOULS-III-FIRE-FADES/dp/B01N9UNFNL

Steam 購入ページ
 https://store.steampowered.com/app/374320/DARK_SOULS_III/?l=japanese

 

 

 

※他にもおすすめは山ほどありますが、メジャーでなく紹介から必要なので省略
BattleErite,The Binding of Issac,Broforce,Celeste,Crypt of the NectoDancer,DarkestDungeron,Dead by Daylight,Deep Rock Galacitic,Dota2,Dungeon Warfare 2,ForHonor,Grim Dawn,Ikaruga,……以下略。

 

 

状況が変化しないため、”戦闘がつまらない”失敗例

 

 ゲームタイトルを宣告したいですが、そのゲームの良さは別のところにあったり古いゲームが殆どですので、ゲームタイトルは無しで説明します。これから述べることは、よほど自信がない限り考慮したうえで避けるべきことです。

 

 

・武器にダメージ判定が出る瞬間だけ前に出られる。

 攻撃モーション中でも前後左右に移動できる近接戦闘ゲームで、上半身と下半身の動きが独立していると発生します。人間じゃねぇ。普段は後ろに移動しながら攻撃を出し、武器のダメージ判定が発生する瞬間だけ前に移動して、ダメージ判定を相手の体に擦らせるのが有効です。

 

 攻撃と回避が同時に行えるので、攻撃ボタンを連打しながら、ダメージ判定ぎりぎりの距離を前進と後退で調整するのが最適解になっています。

 

 

 

・引き撃ちに勝るものなし。

 敵の攻撃は後ろに下がっていれば当たらないゲームで、主人公が引き撃ち出来る遠距離武器を所持すると無双化する現象です。この場合、リスクかリソース管理が必要ですが、それが無いゲームもあります。それだけやっていれば勝てますがつまらないです。引き撃ち対策された敵に対する有効手段が、もっとうまい引き撃ちだったりしてもうね……。

 

 

 

・攻撃を与えることが有利にならない。

 敵に対して攻撃するが、ダメージを受けても敵の行動が何の変化もしないゲーム、遠距離射撃ゲームに多いですが、許されるものと許されないものがあります。

 FPSだと敵と出会った時点で数秒以内に勝敗がほぼ決まるので許されるケースもあります。が、戦闘時間が数十秒に及ぶものでやってはいけません。ユーザーは敵の攻撃を避け続けながらダメージを与えるしかなく、HPゲージを眺める以外に面白さは無いです。揺れないサンドバッグの素晴らしさを語りたいのでしょうが、需要はないでしょう。

 

 

 

・そもそも選択肢がない

 特定の必殺技を使えば、勝利する。作者はLIVE A LIVEの森部のじーさんから技を教わったのか?

 

※本稿とは関係ないがRPGツクール作品で作者が戦闘を面白くする気がないと、二つ目の街当たりで全体皆殺し魔法が爆誕する。「おっ、こいつやりやがったな」とその瞬間は笑えるが、次はない。

 

 

まとめ

 
・戦闘に移動を伴うゲームで戦闘を楽しくしたいのであれば、状況の変化に”距離”を使うのはとても有効です。

 

・アクションすることで状況が変わるゲームは楽しい。様々な状況に移り変わるようにしよう。状況が停滞してはいけません

 

 

 本記事は、自分が忘れないようにするための日記でもありまして、癖が強いと思われます。良いと感じる要素があれば、抜き取っていただき、戦闘が楽しいゲーム作りに役に立ってくれれば良いなと思います。

 

 以上です。長文を読んでいただきありがとうございます。